「にいちゃんおやすみってまいにちおもうね」
児童養護施設では、子どもの出入りも大人の出入りも頻繁にあります。数多くの別れや出会いを短いスパンで経験する、特殊な環境です。今日はとある兄弟の小さな別れについてお話しさせてください。
弟は園児、兄は小学校低学年の兄弟です。
弟と兄は同じ施設内の同じユニットに居たのですが、弟が近隣のユニットへ移動することになりました。今までひとつ屋根のしたで暮らしていたのに、そろそろ離れ離れになってしまう。
そんな初夏の出来事です。
外でふたりが仲良く遊んでいる様子を、ぼくは後ろで見守っています。庭にある子ども用バスケットゴールに向かって、ふたりがピョンピョンし始めました。ジャンプしてゴールネット触りたい弟のため、兄が弟を抱っこしたりおんぶしたりして、何とか触らせてくれます。
兄は普段はヤンチャで、暴れたり騒いだりして職員さんを困らせがちなのですが、間近に迫る別れの足音を聞いているのかこの日は違いました。
兄は「ゴールのひもは掴まない、倒れる、触るだけ」という的確なアドバイスをしています。
弟はその言葉に素直に頷いて、ニコニコしています。「兄ちゃんすげぇ!」とおめめもキラキラしています。
しばらくそのまま庭で遊び、部屋に帰る時間。
おもむろに弟の前に立った兄は言います。
「同じ寮に住めなくなっても、こうやって外で遊べるやん、さみしくないよな!」と、兄。
「うん!」と弟。
それを見たぼくは
「そうだよねぇ!外で遊んでもいいし、今まで居た寮に遊びに来てもいいよね!!!」と全力賛同。
普段は弟の世話をやくことのない兄ですが、やっぱり、心のどこかで繋がりを感じているのでしょう。仲良しの素敵な兄弟が見られて嬉しかったです。
その夜、弟くんと添い寝をしていたぼくですが、もう一度この子に泣かされることに。
「ハルくん、にいちゃんに いっておいて。おへやが かわっても、まいにち“にいちゃんおやすみ”っておもうねって。」
伝える、絶対伝える。
兄弟の絆は、距離では切れません。
また一緒に住める日が来るといいね。
~こぼれ話~
上記の弟くんと、毎度お馴染み3年生の深月くんのやりとりが最高に面白かったので書き留めておきます。ぜひ皆さんもちびっこワールドにクスッとしてくださたい。
施設のお庭で、深月くん、弟くん、ぼくの3人でサッカーの三角パスをすることになりました。柔らかなビニールボールを使って、キックの練習です。
深月くんと力加減を学ぶために、ぼくはよくボールで遊ぶ提案をしています。弟くんは運動神経が良く、ちょこまかと上手に動き回ります。
しかし、とにかく会話が完全に深月ワールド。
「名言製造機 深月」とかのタイトルでいつか名言本としてまとめたい。
深月「弟くん意外とうまい!いいセンいってる!」
弟「???サッカーせんしゅみたい?」
深月「せんしゅは俺を越えられたらなれる。俺はサッカーとくいだから、色んな技を与えよう。これがアイテム(※渡すフリをする)」
弟「????(※わからず受けとるフリをする)」
深月「ハルくん、俺の足は炎。炎だから蹴ったらボール燃えるでしょ?俺がサッカーうますぎてそこらじゅうが火事になるよ。」
ハル「えぇ!?じゃあ深月くんが蹴る前に消防車呼ぶから待ってて!」
深月「それは大丈夫。安心して。左で蹴ると水も出せる。俺サッカーうまいから。炎で燃やして水で消すから。安心してくれればいいから」
ハル「そうなの!?そ、そうか…よかった……!じゃあ燃えたら任せるね!」
面白みがすごい……
深月ワールド深い……
楽しい……
これからも君の世界を教えてくれ……