子どもが僕らを素敵な先生にしてくれる。

子どもが僕らを素敵な先生にしてくれる。

児童養護施設、小学校、教育系大学、教育実習、療育施設などで経験した事柄を連ねる、徒然なるままにが過ぎるブログ

児童養護施設にて子どもの持つ無償の愛と胎児記憶

「はるちゃんも、だれかに えらばれるといいねぇ」

 

皆様は胎児記憶というものをご存知ですか?簡単に言えば、生まれる前にお腹のなかにいたころの記憶といったところでしょうか。成長と共に無くしていくものらしいのですが、3歳くらいまではある子もいると聞きます。「あたたかかった」とか、「おみずにうかんでた」など、事実と相違いない状況や感想を、性教育はおろか赤ちゃんの生まれ方も知らない乳幼児が話すそうです。
  ぼくの勤める児童養護施設では、乳幼児~18歳の高校生がひとつ屋根の下で寝食を共にし、その命を一生懸命過ごしています。乳幼児さんや小学生はまだまだ甘えたい盛り。夜は心細さも増して一人寝ができる子は珍しく、眠るまで職員が付き添って寝ています。

眠る前、寝ぐずりで「かゆいかゆい」とべそをかく颯天(はやて)くん。小学生になっても情緒の不安定さや発達の遅れから、おむつが手放せません。本人はそれが普通で、回りにとっても普通になっているので、茶化すような雰囲気になることはありません。「自分のペースで。人は人、自分は自分」を守って来られた先輩職員さんの力を感じます。

 

特に荒れてもいないおしりにベビーワセリンを塗ってもらって、ようやく満足した様子。一対一の関わりが欲しいのは子どもにとって当たり前ですから、職員も無駄に「ほんとはかゆくないでしょ!?」なんて叱ったりしません。これがあれば寝られるのですから、安心を与えるつもりで薬を塗るのです。いわゆる手当てというやつでしょう。

やっとお布団に入り、周りの子どもたちから寝息が聞こえ始め、職員も落ち着いてきた頃。颯天にちょっときて、と呼ばれ、ぼくは静かに颯天の部屋へ入りました。

颯天はちゃんとお布団に入って待っており、藪から棒に

「おれは しんだら、かみさまにおねがいして、ママをかえてもらうの」

と呟きました。颯天にはパパが居ません。ママはシングルマザーで颯天を育て、身体を壊し、経済的な理由などで颯天を児童養護施設に預けています。

 

突然の颯天の告白にはるちゃんびっくり。「へぇ、それはいつか死んだらの話?」と聞くと、「100さいまで としとって、おじいさんになってから!」とのことで、今死ぬ、というわけではなく内心安堵……。はるちゃん心臓出ちゃうかと思った。よかった、とりあえず未来の話で。思わず颯天を抱きしめます。

 

颯天はどんなママに変えてもらいたいの?と聞くと、もっと優しいママに、何でも買ってくれるママに、いつも遊んでくれるママに……。色んなママを指折り数えながら挙げてくれました。ママといるから施設にも来ないよ、と。

でも最後にうとうとしながら、

「いまのおれは、いまのママをえらんできたから、いまはいいけどね」と。

はるちゃん2度目のドッキリ。そうか、颯天、選んできたのか。お前、選んで、ここに生きてるのか。目の奥と胸の底がきゅっとなり、横になることで涙を隠すのが精一杯でした。こんなに純粋な愛が他にあるのでしょうか。

「……颯天に選ばれたママは幸せだなぁ。選ばれるってすごいことだもんね」

「おれが えらんだから ママはしあわせ。べつに すんででも、きっとしあわせだよ」

「本当にそうだね。颯天のママは幸せだよ。それを聞かせてもらえたはるちゃんも、なんだか幸せな気持ちだよ。なんだか颯天のママが羨ましくなってきたな~」

ぼくの言葉ににこにこして、半分寝ながら颯天は言います。

「はるちゃんも、いつか だれかに えらばれるといいねぇ」

ぼくも選ばれるなら颯天がいいなぁと話すと、「おれはだめ、ママのこ だから」と、最後まで笑いながら眠りにつきました。颯天の気持ちがじんわりと心に染み、「選んで生まれてきた」という言葉に胸が熱くなります。1種の胎児記憶なのか、颯天の心がそう叫んだのか、真相は安らかな子どもの眠りの中です。