子どもが僕らを素敵な先生にしてくれる。

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児童養護施設、小学校、教育系大学、教育実習、療育施設などで経験した事柄を連ねる、徒然なるままにが過ぎるブログ

ぼくらのたからばこやさん

児童養護施設にて、高校生が命の限りを教わる瞬間

「俺が死ぬときも頼むよ」

  命の守り方や大切さを学んだのはいつだったでしょう。本当の意味で、命の限りを知ったのはいつだったでしょう。自分の命にも終わりがあり、死が意外と身近にあると、認識できたのはいつだったでしょう。

 

 

児童養護施設で暮らす浩史(ひろし)くん、18歳。今年施設を卒園する高校3年生です。

誰にでも人当たりがよく、にこにこ、元気で明るい彼は、ちびっこたちからも同級生からも人気があります。

「俺が居なくなったらここ(施設)寂しくなるよ?」
と毎回ぼくに言ってくるのですか、ほんとだよ!!

ハルくんどれほど君に救われてるかわからない。
毎週末遊びに来てくれないとハルくんグレるねと、冗談で伝えてあります。

浩史は両親に先立たれ、年老いた祖父しか身寄りがありませんでした。その祖父も今は入院中。浩史は施設を出たら、働きながら一人暮らしを始めます。

そんな秋のことです。

 

基本的に小学生担当のぼくがちびっこたちを寝かしつけ、高校生や中学生がのんびりしているリビングに戻ると、

「ハルくん遊べる?」
と声をかけてくれるのは高校2年生の夏(なつ)くん。

夏くんも人懐こく、よくぼくを自室に呼んでは、彼女の話や生い立ちを話してくれます。夏と浩史は、幼い頃から同じ施設で育ち、お互いを長く知っているため、いわば幼馴染み。

当たり前のように夏を気にかけ、何も言わずとも声をかけたり慰めにいったりする浩史。

夏はそんな優しい浩史のことを、まるで本物の兄のように慕い、
「俺はあぁいう男になる」
と目標にしています。

ある夜。

2人の暮らす寮に1本の電話が入りました。

病院からです。

浩史の祖父の容態が急変した、至急病院まで来てほしいという内容でした。

浩史に伝えると、
「覚悟してきたし大丈夫だから、皆には言わないで連れてって」
と言います。

職員もその予定だったのですが、ぼくは浩史の口からその言葉が出たことになぜか涙ぐんでしまいました。

 

覚悟か。

大人だ。

ぼくは18歳のとき、まだまだ親には反抗ばかりで覚悟どころか孝行すら考えていなかったと思います。

 

浩史と病院に行く準備をし、最悪の事態に備えて上司に連絡を取ります。

他の子どもたちには、
「なんかちょっとした呼び出し(笑)」
と浩史自身が伝えていました。

浩史くんなんかやったのー?と子どもたちは普通に送り出してくれました。

 

病院へ向かう車に乗ったときです。

「待って!俺も行く!」
さっきまでシャワーを浴びていたらしく、パジャマ代わりのジャージもしっかり着ないまま夏が駆け込んで来たのです。

出発しようとする車にドンッ!と手をつき、職員が驚いている隙に夏が飛び乗ってきました。

「浩史くんのおじーちゃんやろ!?俺も行く」

なぜわかったのか。

子どもたちには何も言わず寮を出てきたのです。

浩史と長く一緒にいる夏は、何か感じるものがあったのかもしれません。

頑固な夏くん。
こうと決めたらこう!な性格と、浩史を一人にできないという熱い心からか、職員が何を言って聞きません。

こんな時間に親族以外を連れていくわけにはいかない、夏には明日学校もあるし、外出の届けもしてない、だから心配なのはわかるけど連れていけないよ。
という旨を職員が話すも、断固として車を降りようとしません。

先輩職員は、少し困った視線を浩史に向けました。

夏を置いていくために、ちょっとだけ浩史に助け船を出してほしかったのです。

夏は浩史の言うことなら基本的に素直に聞きますから。


しかし、今日は様子が違います。いつも夏を嗜める側に回ってくれる浩史が、夏を否定も肯定もせず、ぎゅうっと膝の上で拳を握っていました。

ぼくは悟りました。

みんなの兄貴分で、職員からの信頼もあついしっかり者の浩史。
人に頼られることも多く、誰かの世話をうまくやいて、みんなを元気づけて来てくれた浩史。

今君の胸は、おじいさんの無事を願って不安で張り裂けそうなはずだ。

なぜ気づけなかったんだろう。

己を悔やみました。

そして、
夏を連れていこう。責任はぼくらで取りましょうよと先輩を説得。

先輩も、夏の勢いと
「ハルそっちの味方なの!?」
と諦めたのか、とりあえずシートベルトして、と夏に言ってくれました。

浩史の隣に座り直した夏は、ガッと兄貴分の肩を抱いて
「俺がついてるよ浩史くん」
と、いつも自分がしてもらってるように。

浩史がくれた分を返すかのように。
ふたりはそのまま病院まで無言で過ごしました。

ただ、浩史の握られていた手からは力が抜けているのを、ぼくは見逃しませんでした。

 

幸い、浩史の祖父は無事で、意識も戻り、話をすることもできました。
ほっとして帰路についていると、車の後ろに並んで乗っているふたりの会話が聞こえてきます。

「浩史くんよかったな、おじーちゃん」
「おぉ、まぁ何とか成人式までは生きてほしいと思ってるから、ちょっと安心したわ。」
「俺浩史くんには俺がいるから、俺が成人式も行くわ!」
「なんだそれ。お前が来てどうする。成人式より、じーさんの葬式に来てくれ」
「……うん、」
「俺が死ぬときも頼むな」

 

ふたりが何を思ってこの会話をしたのか、大人のぼくたちにはわかりません。

10代の子どもたちにとって重たいことで、でもいつかは避けられないことで。

命の限りがあることを自覚したふたりは、人によりいっそう優しくなれるでしょう。