「俺は父親にはなりたくないけど嫁さんはほしいなー」
児童養護施設ではタブー視されていると思われがちですが、「結婚」「家族」「子ども」の話は日常的にあります。
誰が誰と付き合っているとか、どんな人がタイプだとか、そういう恋バナの延長でフツーに繰り広げられる会話です。
児童養護施設で育つ兄弟の結婚観と家族観
今日は中学生が国語の宿題で「結婚」を題材にしている問題を解いていました。いつも通り宿題を手伝い、時間割りを確認しているとき、和巳(カズミ)くんがふと一言。
「俺将来子どもはいらんけど嫁さんはほしいなー」
ぼくは意図がすぐには汲み取れず、返答あぐねて「へぇ?」と答えただけ。しかし、同じ部屋にいた兄の竜巳(タツミ)くんは和巳のそれに同意します。
「あー、だよな。俺らの父さんクソオヤジだからな。俺らもあぁなるくらいなら子どもはいらんな」
「ね。でも嫁さんはほしい」
「わかる。俺も。」
竜巳と和巳は仲の良い兄弟で、幼い頃から二人揃って児童養護施設で暮らしています。
今では中学生ですが、2歳から居るそうで「俺らは皆の先輩だから!」と場をまとめてくれることもあります。ぼくも新任のころはふたりから色々なことを教わったものです。
ふたりの親御さんは今や消息が掴めず、竜巳にとっても和巳にとっても、お互いが唯一の身内。
そんな2人が、同じ結婚観、家族観を持っていることが判明しました。
俺らは父親も母親も知らんけど、父親がクソオヤジだったから母親が出てったって聞いてる。だから父親に対してどうしても良い印象やイメージを持てない。自分達が父親になることも考えられないが、結婚に対しては少し憧れがあるのでお嫁さんはほしい。2人揃って同じことを言いました。
「お嫁さんが子どもほしいって言ったらごめんけど断る。」
と和巳が言い、
「子どもできたらどうしたらいいかわからない。俺らと同じにはしたくないし、嫁さんにもさせたくない」
と竜巳。
「でも子ども居ないと嫁さん寂しいかもしれん。俺は仕事いくし、そうなると家で一人で居ないといかん。」
と和巳が言い、
「まぁなー。嫁さん寂しくさせて浮気されたら悲しいしなー」
と竜巳。
もう一度確認しますがこの子たち、中学生です。
ぼくが「じゃあ2人で住んで、お嫁さんも合わせて4人で住めばどうよ。お嫁さん同士も寂しくないし、万が一子どもができるようなことがあれば4人で育てるのはいかがか」と提案しました。
2人はおっ!という顔をして、良い案だねそれ、と笑ってくれました。
家族を作ることに積極的であっても、自分達と同じにはしたくない、自信もないと現実を見据えている彼らに、偏った成長を感じました。この子たちが幸せになることをただただ祈ります。