「おやすみ、ぼくの天使たちよ」
ぼくのいる児童養護施設では、小学校低学年以下は添い寝が許されている。
男児には男性職員が、女児には女性職員が、という決まりもある。
今日はぼくの宿直当番の日だ。
週に1回程の、子どもたちの眠りを守る役目を仰せつかった日である。
夜泣きや夜尿くらいどーってことないさ
夜寝る前に、グズグズとしてしまうのは何処にでも子どもならあることだ。
児童養護施設にも、もちろんある。
眠たいからグズっている子もいれば、まだ遊んでいたくてグズっている子も。
なかには、ただ何かが満たされなくて、求めて求めて泣いている子もいる。
児童養護施設で過ごす子どもたちは、心の安定と愛着をうまく形成されない傾向にある。
それが原因で、夜泣きや夜尿が続く。
小学校高学年になっても、中学生になっても、高校生になっても、治らない子もいる。
心因性のものなのか、身体に異変があるのか調べるために病院に行き、そのまま治療のため通っている子もいる。
どうにも寝付きが悪く、睡眠薬を飲んでいる子もいる。
夜になると不安が押し寄せて、自傷をする子もいる。
児童養護施設の夜は、穏やかで静かなものではない。
子どもたちの安らかな眠りを守るために、ぼくら職員は交代で毎日寄り添い続けているのだ。
体温と大人の存在で、安心と眠りを守っていく
添い寝は業務には含まれないのだが、愛着形成の視点からぼくはよく子どもたちと寝る。
同じ部屋で寝ないにしても、子どもが寝付くまで側にいて、それから事務処理などを行うのだ。
子どもたちは安心を求めて近くに寝たがるのだけども、大人のぼくも両脇にすっぽりおさまる小さな身体から安心を感じている。
子どもたちは子どもたちで、同じ部屋に大人がいることに安心感を得るようだ。
「ハルくん何分までいられる?」
きみが寝るまでいるよ。
「あと何分いられる?」
きみが寝るまでずっといるよ。
そんなやりとりを繰り返す夜もある。
部屋が静かになったころ。
自分よりも少し温かなおでこを、手のひらで優しく撫でる。
上下する胸元、薄くあいた唇。
あぁ、息してる。
ちゃんと息してる。
それに涙が出るほど感動する。
なんて愛しいんだ、なんて可愛いんだと思いながら、潤んだ目元を拭って。
突然身じろいだ天使たちの背中に、ぼくは少し息を止めたりね。
起こしてしまったらいけない。
この子たちの安らかな眠りを、守るのがぼくの使命である。
気持ちが追い付かず泣きわめいて収集のつかない真夜中も、お手洗いに失敗してふとんをびったびたにしちゃう朝だって、変わらず愛しい。
子どもたちの温もりは、眠るのが下手なぼくにも、緩やかで確かな安心を睡魔といっしょに連れてくる。
おやすみ、ぼくの天使たち。