「レゴは おれの じんせいなんだ。」
子どもの言葉には、大人がハッとするものが多い。
いつの間にか忘れていた子どもの頃の気持ち、見逃している自分への甘え、気にしてもいなかった思考の穴……
ぼくたち大人にとって、一番のせんせーは子どもだと思うのです。
児童養護施設、小学校、家庭教師、発達障害児の指導員などを経験してきたぼくが、ノンフィクションで子どもにもらった「こども学問のすすめ」をご紹介します。
そんなこと考えたこともなかった……という新しい発見と、確かにあの頃考えていた、という忘却を呼び起こす学びを、たくさんご紹介できることと思いますぞ。
今回の主役、深月(ミヅキ)くん。
何事に対しても「ほどほど」が苦手な、アスペルガーの男の子です。こだわりが強く、職人気質。語彙力が豊かで言い回しが独特。
そして哲学的な発言から、彼の心の豊かさと深さを知ることができます。
芸術肌で一風変わった世界観を持っている彼に、ぼくたち大人も魅了されているのです。
そんな深月くん、歳相応にレゴブロックが大好きな小学3年生。体は小さく、1つ下の学年と交ざっても違和感のないほどのサイズ感。
しかし、好きなことへの集中力は誰にも負けません。6畳の部屋いっぱいにブロックを転がし、何時間でも遊んでいられます。
真剣にブロックを組み立てる小さな背中は、まるで職人。
パーツを探す視線など、最早スナイパー。
機敏な動きで多くのブロックを組み上げ、「ふぅ」と息をつく姿には思わずスタンディングオベーション。うーん、芸術だね。ブラボーブラボー。
ただ、片づけの時間が近づく度に、ブルーになるのが子どもです。いつまでも気の済むまで遊んでいたい……でも大人に怒られるのも避けたい……!
「そろそろご飯だから片付けるよー」と言うぼくに、深月くんは真剣な顔で返します。
「ハルくん、おれに とって、レゴは じんせい なんだ。」
「そうなの?!ご、ごめん……ハルくんレゴのことなめてた……。人生なら、今急にはやめられないよね。深月くんのキリがつく時間を教えてくれれば、大人もそれまで待つよ」
「ううん、いいんだ。あのね、じんせいはね、あまくないんだよ」
「そ、そのとおりです」
「たのしい じかんは、いつもと おなじだけ すぎるものだから」
そう言うと物憂げな溜め息を吐き、いそいそと片づけを始める小学3年生。
小学生のものとは思えない哀愁。
深月くんの世界は私たちのものよりも色づき、鮮やかであるのかもしれません。
ゆっくりに見える身体の成長や、マイペースを貫く心の成長。
でもきみは、きみにしかわからない時間の中ですくすく育っているね。
ずっとそのまま豊かなきみで、ゆっくり大人になってほしいものです。
片付け終わった名言製造機深月くんは、「ごはんたべたら また じんせいを はじめよう。いっしょにね。」とかっこよくぼくを誘いました。
プロポーズか!
頷くぼくを確認した後、彼はちゃーんと手を洗ってから食事に向かいましたとさ。